人と環境のWinWinな関係
「静岡の茶草場農法」。

自然が持つ可能性に、創意工夫を重ねて。

「茶草場農法」とは、茶園の畝間にススキやササを主とする刈敷きを行う伝統的農法のことで、昔は日本中どこにでも見られた、ありふれた里山の風景でした。農業や人々の生活が近代化したことにより、この農法は減少の一途をたどり、現在は静岡県の掛川市、菊川市、島田市、牧之原市、川根本町の限られたエリアでのみ続けられています。その代表的な地が、静岡県掛川市東山地区です。

掛川市東山地区に広がる茶園の周囲には「茶草場」と呼ばれる草むら状の地帯がモザイク状に点在している地帯があります。秋になると、この茶草場の草を刈り、その草を束ねて干し、乾燥させて、茶畑に敷き込みます。これによって土が柔らかくなり、茶の品質がよくなることから、茶農家の方々は手間ひま掛けてこの農法を守ってきました。この茶草場のある茶畑の風景は、訪れる人に“茶どころ静岡”を感じさせる象徴的な景観となっています。

静岡の茶草場農法

① 草を刈る

秋から冬にかけて茶草場のススキやササなどの草を刈り上げます

② 刈った草を束ねる

刈り上げた草を草や紐で束ねます

③ 乾燥させる

束ねた草を立てて2,3日乾燥させます。地元では「カッポシ」と呼びます

④ 茶畑を敷き詰める

乾燥させた草を畑に敷き詰めていきます

おいしいお茶づくりが、生物の幸せにも繋がる。

人の手によって維持管理されている茶草場は、「半自然草地」と呼ばれ、多くの生物種が生息しています。近年の調査で300種類以上の草地草花が共存しており、うち絶滅危惧種9種が確認されるなど、生物多様性が保たれているのが特長です。また茶園に敷き草を施すことで地温の調整や土壌水分の保持、雑草の抑制、土壌や肥料の流失防止、有機物の供給などの効果があると考えられています。東山の茶園は、この有機物を敷き込んだ、微生物が多い腐植土壌によって、味わい深く香り高いお茶が育つのです。

サシバ(タカ科)
NPO法人静岡県自然史博物館ネットワーク

ナデシコ

茶草場に見られる植物は、代表的なススキやササユリ、キキョウなどの他、絶滅危惧種のフジタイゲキやキンランなど。茶草場では定期的に草を刈るため、大きな植物が茂ることなく地面まで日が当たるので、生存競争に弱いさまざまな植物が生息しやすい環境になるのだそうです。またカモシカなどの動物や絶滅危惧種のカケガワフキバッタなどの珍しい昆虫もたくさん暮らしています。

世界農業遺産に認定された「静岡の茶草場農法」。

2013年、「静岡の茶草場農法」は、世界農業遺産として認められました。世界農業遺産とは、衰退しつつある伝統的な農林水産業、文化風習、生物多様性などの保全を目的に、世界的に重要な農林水産業システムを国際連合食糧農業機関(FAO)が認定した制度です。「静岡の茶草場農法」は、よいお茶を作ろうとする農家の営みや努力と、生物多様性が両立している、世界的にも非常に珍しい事例として認められた証にほかなりません。

さらに「茶草場」は、地域の共有財産という意識も強く、労力の補完など相互扶助によって保たれていることも評価されています。この地の農家の方々が一丸となってお茶づくりにかけてきた思いが、日本から失われつつあった里山の草地の環境を守り続けてきたのです。そして、先々代から受け継がれ、150年にわたって自然の力と向き合ってきたこの茶草場農法を、次世代に受け継いでいくことが、私たちの使命なのです。

世界農業遺産静岡の茶草場農法
https://www.chagusaba.jp